絹(シルク)が水に濡れて乾くとシミになるのは何故か?

着物だけでなく、絹(シルク)を使った物は高級な洋服やスカーフなどがありますが、絹製品に水が付いて乾いた跡が輪ジミになってしまった、そんな経験をお持ちの方は多いのではないかと思います。

綿などの絹以外の素材ではあまり起きないこの現象は、絹製品では一体どうして起こるのでしょうか?

着物に長年携わってきたお手入れのプロの視点で、出来るだけ分かりやすく解説してみます。

まず、絹(シルク)という素材の特徴として、繊維が水を含むと、伸び縮みしやすいという性質があります。

特に着物の生地の種類の一つである縮緬(ちりめん)という織り方をした絹の生地は、糸に撚り(より)というねじりをかけて織ってありますので、水に濡れるとそのねじりに影響する形で、他の織り方の生地に比べてより縮みが発生しやすい特徴があります。

水が付いて部分的に縮みが発生すると、その部分のみ凹凸が生まれて光の反射率などが変化を起こしますので、結果的にシミのように見える状態になってしまうことがあります。

このような状態の場合、霧吹きで軽くに濡らしてから蒸気を当てるだけで見えにくくなることもあります(完全に消すのは難しいのと、霧吹きで水をかけすぎると余計に輪染みが拡がるリスクもあります)

それ以外にも、単なる水濡れによる生地の縮みの問題だけではないことが原因で、輪染みになっている場合があります。

単なる水の型ではない輪染みが起こる場合

それは、生地に含まれている糊気(のりけ)や水溶性の不純物が、水に濡れたことによって溶け出して流動化し、濡れて出来た輪の外側へと移動していき、水分が乾く際にそのまま輪の外側で留まってしまい、動いた糊気や不純物がその部分に過剰にある状態なので、濃く見えてしまう現象です。

このような状態になった場合、水に濡れて動いてしまった糊気や不純物を再び流動化させて平均的に馴染ませる必要があるので、霧吹きで濡らす程度ではなく、一見して濡れたと分かるくらいに生地を濡らしてあげる必要があります。
そして当然ながら、水に濡れたことにより出来た輪染みを消すために水を使っていますので、乾かし方を失敗すると、より大きな輪染みになってしまうという、さらなる失敗となってしまいます。

ですので、このような水を使った染み抜きが必要な状態の場合、無理をせずに染み抜きのプロにお任せいただくべきだと思います。

プロが染み抜きする場合でも、もちろん輪ジミは起きますが、そうならないように濡らした後の一工夫をいたします。

その工夫は、水を空気の力で霧状に噴霧する機械で、染み抜きなどで水を使って出来た輪染みの際(きわ)に細かい霧状の水を吹きかけて、濡れた部分の外側を暈して(ぼかして)、乾く際に輪ジミが起きないようにします。

また、乾かすときも、様々な工夫をこらして出来るだけ輪染みが残らないようにしております。

最も深刻なのは、濡れて色が滲んだ場合

水に濡れて輪ジミになってしまった場合、単なる糊気や不純物の輪染みよりも、もっと深刻な事態のことがあります。

それは、生地を染めている染料が水に濡れたことによって流動化してしまい、先ほどの不純物などと同じように輪ジミの外側に移動して、輪染みの周囲に留まってしまう場合です。

これを直すには、水だけでなく染料を溶かす薬品なども必要になりますし、染み抜きのプロでも技術力がないと絶対に直せない輪染みですので、ご自分で直すことは不可能です。

また、色にじみのシミは、染み抜きのプロであってもシミの大きさや染料が動いた状態などで完全に元に戻すのは難しい場合があるので、基本的に絹(シルク)製品はくれぐれも水に濡らさないように注意が必要です。

水ジミを防ぐには、撥水(ガード)加工が一番有効

絹製品が水に濡れることにより出来てしまう輪ジミですが、それを防ぐために一番確実な方法は、やはりガード加工(撥水加工)だと思います。

物理的に生地に水分を通さないように加工しますので、ちょっとした水滴や軽い雨でしたら確実に弾いてくれますから、水に濡れても輪ジミになってしまうことが非常に少ないです(絶対ではないですが)

着物や絹製品の水による輪ジミでお困りでしたら、まずはプロの手で染み抜きを行い、その後の予防なども含めて信頼のおけるお店にご相談されるのが良いかと思います。

生地が擦れて表面が毛羽立ち二度と元に戻せない状態になったり、染色が滲んで消えない色ムラになったりする危険性が高いので、絹(シルク)の生地をご自分で水を使って染み抜きするのは、くれぐれも止めた方が良いと考えます。