下請けに丸投げの着物クリーニング専門店の実態

染色補正師 栗田裕史

 

着物クリーニングや丸洗いを謳ってお手入れを請け負うお店は全国にたくさんあります。

特に今は、ネットで探すことが出来るので、着物クリーニングで検索すると、山のようにお店が出てきます。

その中でも、着物クリーニング専門を謳うお店も数多くあります。

専門店。なんだか本格的というかそれだけを真摯にやっているようなイメージがあります。

ところが、お店のサイトで専門店を標榜しながら、受付した後は外注先(洗いや染み抜きなどを請け負う加工工場)に丸投げして、下代(外注先からの請求額)に自社の取り分(下代の何倍もの利益)を上乗せして請求し、あたかも自社で作業をしたように振る舞っているお店が非常に多いという側面があります。

もちろん、なをし屋も自社で出来ない加工(金彩加工や仕立直しなど)は職先さんにお願いしていますが、それはあくまで自社で行うよりも職先さんに委託した方がより良い仕上がりでお客様に喜んでいただけるからで、全ての作業を丸投げしておいて上前をはねるような商いをしながら着物クリーニング専門店を名乗ることとは根本的に違います。

外注に丸投げのお店では、なぜ古いシミが直らないのか?

なをし屋でご相談を受けるお話に、「他店さんに出したけれど、シミが全然直らなくてお金だけ請求された」という話は結構あります。

シミを落として着たいから着物クリーニングに出したのに、着られる状態にならずにお金だけ払わされた。非常に悲しい結果ですよね。

自分で言うのもアレですが、なをし屋の染み抜き技術には自信があります。今までにも、数え切れないほどのお着物を救ってお客様に大変喜んでいただいてきたという自負もあります。

ただ、自信があるというのは、お客様にご満足いただけるだけの技術を持っているということで、決して他の職人さんよりも優れていることと同義ではありません。

私は染み抜きの業界の組合にも加入しておりますが、優れた技術を持っている職人さんは、たくさんいらっしゃいます。

その中には、名ばかりの着物クリーニング専門店の外注先として仕事をしている方もいらっしゃいます。

ところが、世の着物クリーニングを承る多くのお店でシミが直らなかったというご相談も多いんですね。

それは、なぜなんでしょうか?

先に、着物クリーニング専門店を謳っていても、実は全てを丸投げしているお店が多いという話をいたしました。

そして、そのお店は、外注先からの下代に何倍もの利益を上乗せして請求しているという話もしました。

この、下代に利益を上乗せというのがくせ者なんですね。

着物クリーニングにおける作業は、機械化出来る部分は非常に少ないんです。

洗う際に専用の着物を傷めない機械で洗いますが、その他の汚れの下落とし・染み抜き・仕上げ加工などは、全て手作業での作業になります。

手作業の仕事は手間賃仕事と呼ばれるように、かかった分の手間をお金に替えていただくのが商いの形です。

ですので、外注先として仕事をしている職人は、当然ながらかかった分の手間賃を依頼側に請求します。

ところが、丸投げしている側としては、下代が安ければ安いほど、自店の上乗せする分、つまりは粗利益が増えるので、出来る限り下代を低く抑えたいわけです。

するとどういうことになるか?

外注先が「この着物は○万円かかります」と見積もりを出しても、丸投げ側が「うちの取り分が減るから、○千円でやってくれ」というやり取りが繰り広げられます。

そうなると、外注先はかかった手間賃がもらえない仕事は損なので、「では、その値段で出来るだけやっておきます」ということになるんですね。

で、どうなるか?というと、きちんと手間をかければ直ったはずの着物も、外注先に支払う値段を低く低く抑えたために、中途半端な作業の仕上がりでお客さんの元に戻ってきて、受付したお店は信用を失くし、外注先は手間賃を抑えられて中途半端な仕事をせざるを得ず、お客さんは満足できる仕上がりでないのに高い料金だけ請求される、という、誰も幸せにならない結果になるわけです。

間に人を介すれば介するほど、真意が伝わらなくなる

また、外注に丸投げするお店の場合、全ての受注品は、まずは下請け先に品物を見せて、シミが抜けるかどうか?綺麗に直るのかどうか?などと見積もり額を確認してから依頼された方に伝えます。

このような形式の場合の一番大きな問題が、実際に作業を行う職人と依頼者が話が出来ないという点です。

お医者さんにかかった時のことを例にすると分かりやすいのですが、何か調子の悪い時に病院に行ったとします。

通常は受付の人に症状を話してから実際に医師に診察してもらって会話をするのですが、例えば受付の人としかやり取りが出来なくて、全てのことが患者↔受付↔医師という間に人を介したやり取りで、果たして正確な診断が出来るでしょうか?

着物のお手入れも同じで、下請けに丸投げのお店の場合、実際に作業を行う職人との間に人を介してやり取りするので、こちらの要望や希望は100%は伝わらなく、職人の診断結果なども100%は伝わってこないのです。

特に染み抜きのような高度な技術を要求される事においては、聞いたことを説明するにも知識や経験が必要になります。

経験豊富なベテランのスタッフなどならまだ良いのですが、何も知らない人を介して職人とやり取りした場合、双方が伝えたい事がうまく伝わらず、思わぬトラブルになることも少なくありません。

変色シミはリスクが高いが、下請けが全てのリスクを負わされる

変色したシミや古いシミは、非常に難易度が高い技術的に高度な作業となり、それは常に高いリスクと背中合わせの作業となります。
リスクが高いということは、綺麗にするために精一杯頑張って作業を行うと、その分だけ事故(生地に穴があいたり、破れたりなど)が起こる可能性が飛躍的に高くなります。

もちろん、それは職人の知識や経験で回避出来る場合がほとんどなのですが、稀に細心の注意を払って染み抜き作業をしていても、予期せぬ出来事が起こることはあります。

そのような事故が起きた場合、当店のように直接お客様からお品物をお預かりする店では、まずお預かり時にリスクのご説明をいたしますし、万が一事故が起こった際には、お客様に誠心誠意のご説明をさせていただき、保障などについて話し合いをさせていただきます。

ところが、下請けに丸投げの店では、作業内容について知識がないので、お客様に「どうしてこの事故が起こったのか?」という部分をろくに説明も出来ないまま、事故が起きた際の全責任を下請けの業者に負わせます。

聞いた話では、染み抜き事故が起きた商品を、下請けの業者に上代(お客さんが購入した金額)で買い取らせる弁済を強要する店もあるようです。

そんなリスクと責任を負わされるなら、難しいシミはチャレンジせずに直らないと断った方が良い、そんな風に考えるのは、ある意味自然なことではないかと思います。

着物クリーニング専門店を謳うお店を見つけたら、本当に自社で作業を行っているのか? 見積もりや加工が下請けの業者に丸投げではないのか?

その辺りをお店の方にしっかりと確かめてみるのも良いかと思います。