クリーニングというのは、衣類を洗って綺麗にすることですから、どのようなシミや汚れでも、クリーニングすれば綺麗になると考える方もいらっしゃると思います。
実際に当店でも、「クリーニングに出して仕舞っていたのに、保管中にシミが浮き出てきた・・・」というご相談をいただくことは非常によくあるご相談です。
クリーニングには、落とせる汚れと落とせない汚れがある
一般的にクリーニングはいわゆるドライクリーニングを指すのですが、ドライクリーニングは、石油系溶剤つまりは油の一種で衣類を洗う洗濯方法で、水を一切使用いたしません。
油を使って水を使わないということは、油に溶ける汚れやシミには効果があっても、水にしか溶けない汚れやシミについては、あまり洗浄効果は期待出来ないということになります。
綺麗にするためにドライクリーニングをする意味
クリーニングでは落とせないシミや汚れがあるなら、ドライクリーニングをしても意味がないのでは?とお考えになる方もおられるかと思います。
確かに、ドライクリーニングだけでは落とせない汚れやシミはあるのですが、逆にドライクリーニングだからこそ落とせる汚れがあります。
絹の着物の場合、基本的に仕立てたままの状態では、水洗いは出来ません。
理由として、水洗いによる生地や縫い糸が縮まることによる仕立て寸法の狂いや、水洗いによる生地や柄の染色の滲みや流出による移染事故などが起こるリスクが非常に高いことがあります。
ドライクリーニングが得意とするシミ汚れ
ドライクリーニングの場合、水を一切使わずに着物を仕立てたままで全体を洗えるので、着用や保管している間に全体的にくすみとなって蓄積した汚れ(排気ガスの汚れや空気中のホコリや油分などの汚れなど)を落とすことが出来ます。
それらの着物の全体に渡る汚れを水洗いで落とそうとすると、染み抜き作業では範囲が広すぎてとてつもない手間と時間がかかりますし、水洗いをしようとするなら、仕立てを解いて一枚の長い布地(反物)の状態にしてからの水洗い(解き洗い張り)が必要になりますので、当然ながら、再び着物として着るためには、着物の形に仕立て直す必要が出てきます。
クリーニングの場合、移染や縮みは基本的に起こりませんので、全体の薄汚れを綺麗にするという目的には、最適なお手入れ方法であると言えます。
ドライクリーニングが不得意とするシミ汚れ
一方、ドライクリーニングではあまり落とせないシミ汚れがあります。
それは、先にお話したように水にしか溶けないシミ、つまりは水溶性のシミです。
汗・血液・食べこぼしや飲みこぼし… これらのシミは、ドライクリーニングが不得意とするシミ汚れで、綺麗にするには部分的な染み抜きが必要になります。
クリーニングと染み抜きを同時に行うことで、より綺麗になる
落とせるシミ汚れが限定的なのに、着物をクリーニングをする意味はあるのか?、そんな風に考える方もいるかもしれません。
もしそう問いかけられれば、なをし屋は自信を持ってこうお答えします。
「もちろん、着物をクリーニングすることには大きな意味があります」
着物をクリーニングする大きな意味とメリット
例えば、保管中のホコリ臭さやカビっぽい湿気臭さなどは、しっかりとクリーニングを行ってしっかりと乾燥させることによって、かなり軽減が出来ます。
(カビ臭が酷い場合やカビが目に見えて発生しているお着物は、クリーニングと併用して遠赤外線による除菌というメニューをご案内しております)
また、染み抜きを行う場合、全体的なくすみ汚れがある状態で部分的に染み抜きを行いますと、染み抜きした部分だけ綺麗になって色ムラのようになったり、汚れが溶け出して乾燥する際に修正した箇所の周囲に留まり、輪染みになる場合があります。
このようなことから、染み抜きを行う場合はクリーニングも併用することで、より綺麗に着物を仕上げることが出来るのです。
世の中には、着物クリーニング(丸洗い)には意味がないということを喧伝するお手入れ業者もいますが、意味がないお手入れ方法であれば、原理的に同じドライクリーニングの方法で衣類のメンテナンスを請け負っている街のクリーニング店さんが、全国的にこれほど多くの店舗数になるはずがないということを考えれば、その主張は根拠のない話であることはご理解いただけるかと思います。
シミの種類 | ドライクリーニングで落ちるか否か |
---|---|
食べこぼし | ✕ |
飲みこぼし | ✕ |
汗 | △(溶剤に入れるソープによる) |
血液 | ✕ |
接着剤・樹脂 | ✕ |
口紅・化粧類 | ◯ |
全体の薄汚れ | ◎ |