着物って、高く買い取ってもらえるの?

染色補正師 栗田裕史

 

ネットの広告やテレビのCM、あるいは投函されるチラシなどで、着物を買い取る会社の宣伝が数年前から非常に増えたように思います。

何かの報道で知ったのですが、とある試算によると、日本全国には、およそ8億点の着物や帯がタンスの中などで眠っているんだそうです。

8億って・・・

にわかには信じがたい数値ですが、日々着物のお手入れの仕事をさせていただいている者としては、まだまだ数多くの着物が眠っているんだろうなぁ、というのは実感します。

そんな着物の買取サービスですが、高価買取を謳う所が非常に多いです。

「もう着ない着物、高く買い取ってもらえるなら、売ってしまおうかしら・・・?」

そんな風に考える方は、結構いらっしゃるかと思います。

何故なら、着ない着物を大事にしまっていても、保管の場所を取るだけですし、それならいっそ高く買い取ってもらっていくらかでもお金に替えた方がお得かもしれません(書いてて泣けてきます)

ただし、着物を本当に高く買い取ってもらえるなら・・・ですが。

着物の高価買取は(ほぼ)ありません

着物を高価買取してもらえることって、本当にあるんでしょうか?

結論から申しますと、着物の高価買取は、ほぼ100%ありません

ほぼ、と書いたのは、これがややこしくて嘘とも言い切れない部分でもあるのですが、絶対にあり得ないというわけではないからです。

例えば、人間国宝の称号を持つ作家さんの作品、特に故人でもう新たに作品が作られることがない着物の場合、着物の保管状態が新品同様であれば(ここ非常に大事)、ある程度(ここも大事)高額で買い取ってもらえることもあるそうです。

でも、人間国宝の作った着物って、小売価格で一千万円以上とかしてたとんでもなく高価な着物ですから、そんな着物を持っている人なんてごくごく僅かだと思いますし、確率で言ってしまえば、やはり着物の高価買取というのはほぼないと言っても過言ではないでしょう。

上記の理由以外にも、着物の高価買取がほぼないと言える根拠はまだあります。

着物産業の現在の状況ですが、はっきり言ってかなり衰退しつつある産業です。

平たく言えば、新しい着物は昔に比べると本当に売れていません。

かつて、着物業界全体の売上高は、1975年あたりは2兆円くらいあったそうです。当時の物価を考えると、驚異的な数字だと思います。

それが近年では、3,000億円を割り込む売上高となっています。単純計算で、6分の1くらいの売上高にまで下がってしまいました。

もちろん、その2兆円という売上高が大きすぎたという見方もあると思いますが、現実の話として、新しい着物はあまり売れていないというのが真実です。

新しい着物が売れなくても、中古のリサイクル着物は売れてるんじゃないの?と思われるかもしれません。

確かに、実店舗やネット通販などで中古のリサイクル着物を売るお店は本当にたくさんあります。

私も時々リサイクル着物を販売するお店に行ったり通販サイトを覗いたりするんですが、リサイクル着物、めちゃくちゃお安いんですよ(汗)

着物屋さんで買った時は、100万とかしてたんだろうなぁ~というような着物が、1万円~3万円くらいで売ってます。(状態の良いもので10万円くらいで売ってる物もありますが、割合で言えば僅かです)

シミとかがあったりあまり今風でない柄だったりすると、1,000円とかで売られていることもあります。

それぐらい激安のリサイクル着物、じゃあ仕入れ値は一体いくらなんだろう?って疑問に思いませんか?

高価買取の基準がいくらなのか分かりませんが、○万円で買い取った着物を1万円で売る訳がないのは誰にでも分かる理屈ですよね。

商いの理屈から考えても、着物の高価買取はめったにないことだというのが分かります。

ネットの口コミや体験記などは、ほとんどが宣伝かタイアップ

それでも、ネットで「着物の買い取り」などで検索すると、着物を高価買取してもらったという実体験らしきブログなどが比較的上位に表示されるかと思います。

なので、本当は着物を高価買取してくれるところがあるんじゃないの?と思われるかもしれませんね。

ですが、実はネットで検索して上位に表示される体験記などは、ほぼ全て嘘です。

ではなぜそのような嘘の実体験の記事を書くのか?と言いますと、その記事に貼った着物買取業者のサイトに飛ぶリンクをクリックしてもらうと、集客を手伝った報酬が入ってくるからなんですね。

なので、そのような記事を書いている人たちは、着物の買い取りをして欲しい人たちの助けになるためにそのような記事を書いているわけではなく、自身の収入のためだけに書いているので、平気で嘘偽りも書けるのです。

また、YouTubeやInstagramなどのSNSが広く認知されたことにより、着物系のインフルエンサーと呼ばれるファンの多い人も出てきておりますが、そのように影響力のある人が、「着物を高価買い取りしてもらった!」みたいな投稿をしているのを見た人もいるかもしれませんが、それらの投稿は全てPR案件と言われるもので、要は企業とタイアップして宣伝している投稿です。

もちろん、それ自体は何ら法に触れる行為ではないのですが、真実ではありませんし、PRや宣伝であることを明示せずに投稿をしている場合は、ステルスマーケティングというモラルを欠いた商行為と見做されます。

では、着物を買い取ってもらうことに意味はないのか?

では、着物の買取サービスを利用する意味はないのか?とお考えになるかもしれません。

着物を売って得したいと思われる方には、無意味というか残念な結果になる可能性が非常に高い、買取店によるお手持ちの着物の買い取りですが、着物のお手入れ専門店としては、そこに一つの別の意味を考えます。

着物を着る方が減っているというのはお話ししましたが、着物を持っているけれど着物を着ないという方にとって、自宅に保管してある着物は、処分出来ずに心に引っかかっている悩み事になってしまっていることもあります。

自分では着ないけれど、親御さんに買ってもらった着物だったり、今は亡きお母さんやお祖母ちゃんが着ていた着物だったりという、何らかの想い入れがある着物。

もう着ることはないだろう着物、捨ててしまうには忍びないけど、お手入れもせずにこのまま置いておくのも悩みのタネ。

そんな着物を、売ることで金銭にはあまりならなくても、捨てたのではなく売ることで、また誰かが着る機会があるかもしれない。

そんな風に思えるのであれば、手持ちの着物を買取店に買い取ってもらうことに、一つの意味や意義があるのではないかと思います。

保管している着物を売って金銭的に潤うことは正直かなり難しいですが、捨てるのではなく形だけでも売ることで心がスッキリするのであれば、それはその方にとって、とても意味のあることだと個人的には思います。

着物の買い取り業者は、訪問査定の業者は避けた方が良い

着物を買い取ってくれる業者は数多くありますが、自宅に訪問して査定する形式の業者は、出来るだけ避けた方が良いかと思います。

自宅に来てくれたら楽ですし、面倒だから任せたいという気持ちも分かりますが、業者も商売ですから、はるばる来た以上は手ぶらで帰れないというのが正直なところだと思います。

自宅に業者の人を招いて、買い取り価格に納得出来なかったとしても、じゃあキャンセルしますとその場で言える人は、特に女性であれば少ないのではないかと思います。

また、大手の業者はそんなことないと思います(思いたい)が、着物の買い取りは家に上がる口実で、貴金属などを強引に買い取って行く、社会問題にもなった「押し買い」をする悪徳業者にあたってしまう可能性もあります。

ですので、着物の買い取りをしてもらう時は、自宅に業者を招き入れる訪問形式ではなく、郵送や持ち込み形式の方が安心かと思います。