着物の丸洗い・○○洗い・解き洗い張りの違い

染色補正師 栗田裕史

 

着物の丸洗いを頼んでみようと思った時に、当店のように専門店を謳っているお店は良いのですが、他にも、生洗いとか○○洗いなんて名前を謳っているお店もあります。

それぞれに何が違うんでしょうか?

外注先に丸投げではない本物の着物の丸洗い店が、分かりやすく回答いたします。

着物の丸洗いと◯◯洗いの違い

まず、着物の丸洗いは、その名の通り、着物を解かずに丸洗いするお手入れの方法です。

衿や袖口を手作業で下洗いして(この大事な作業を行わない格安着物クリーニング店も多いです)、その後に着物一点一点の生地や柄の箔や刺繍などをチェックして、丸洗いの溶剤で色が流れたりしないかのテストを行い、丸洗いに耐えうると判断した着物のみ、専用の丸洗いの機械で、専用の丸洗い溶剤を使って優しくかつ汚れ落ちが良い方法で洗います。これがいわゆる着物の丸洗い(クリーニング)です。

着物の丸洗いの際には、お仕立て(縫製)を解かずに洗いますので、お仕立て直しの料金は必要ありません。

そして、着物の丸洗い(クリーニング)ではなく、生洗いや◯◯洗いという着物の洗いは、丸洗い(クリーニング)と何が違うのか?

結論から申しますと、どの洗いも結局は着物の丸洗いと同じです。

(※生洗いに関しては、本来の意味するところは着物の丸洗いやクリーニングとは違います。本来は、着物を解かずに衿・袖口やその他の汚れている部分を仕立てを解かずに手作業で洗うこと、つまりは、着物を解かない=着物(の縫製)をそのまま生かして洗うので、生洗いと呼んでいました。ただ、着物の丸洗いが発展した現代ではそれを行うお店は少なく、着物の丸洗いを生洗いと謳うお店もあるので、この話の中では一緒にしました)

◯◯洗いなんていうなんか独自の洗い方みたいに謳っているお店もありますが、使う機械の違いなどはあっても、着物を解かずに石油系溶剤で洗うという基本は変わりません。

三浴式クリーニング機

 

ですので、着物クリーニングをして欲しいと思った時、着物クリーニングであろうが、丸洗いであろうが、◯◯洗いであろうが、同じ着物クリーニングであると思っていただいて差し支えないかと思います。

着物の丸洗いと解き洗い張りの違い

着物の丸洗い(クリーニング)のご相談をされる際に、「洗い張りをして欲しい」という方がいらっしゃいます。

なをし屋はプロなので、「あ、それは着物の丸洗いではないですか?」と確認しますと、やはり着物の丸洗いをご希望だったということも少なくないのですが、着物の丸洗い(クリーニング)と解き洗い張り、洗うという点では共通項があるのですが、その実、行う作業は全く違う作業なのです。

まず、解き洗い張りというのはどのような作業を行うのか?

その文字からある程度推測出来る方もおられると思いますが、解き洗い張りというのは、着物の仕立てを解いて、反物という繋がった生地の状態にして、洗剤とブラシを使って水洗いする加工になります。

 

解き洗い張り 反物

 

お仕立てを解いてバラバラにしますから、再度お着物として着るためには、当然お仕立て直しが必要となります。

そのなると、お仕立代もかかりますので、トータルの金額も高くなります。

着物の丸洗い(クリーニング)をして欲しかっただけなのに、解き洗い張りを頼んでしまったがために、予想よりも高額になってしまうという悲劇も起こりうるので、着物の丸洗いと解き洗い張りは違うということをぜひ覚えておいてください。

着物の丸洗い(クリーニング)と解き洗い張り、どちらがベストな選択か?

では、着物の丸洗い(クリーニング)と解き洗い張りは、ベストな選択はどちらなのでしょうか?

着物の丸洗いの最大の特徴は、先に述べたように、着物のお仕立てを解かずにそのままの状態で洗うというのが特徴です。

それに対して、解き洗い張りは、仕立てを解きますので、反物の状態でしまっておくのでなければ、仕立て直しが必要になります。

着物のお手入れを頼みたい場合、果たして、着物の丸洗いと解き洗い張りでは、どちらを選ぶのが最適な選択なのでしょうか?

【着物の丸洗いのメリット

●お仕立てを解かずに着物を洗えるので、お仕立て直しの作業が必要ない=お仕立て代がかからない

●クリーニング溶剤には油性の汚れを落とす力があるので、クリーニングで洗って着物の薄汚れ(排気ガスなどによる経年の汚れなど)を落とすことにより、着物の色合いが明るくなる効果が期待できる

●長期の保管中の臭いや湿気臭さやカビ臭さなどを軽減する効果があるので、長期保管していた着物を着る前にまずはさっぱりさせたいという場合には最適

【着物の丸洗いのデメリット

●油性の溶剤を使う洗いであり、水を使う水洗いではないので、水性の汚れ(食べこぼし・汗など)には効果が期待出来ない

●何度も繰り返し洗うと、着物の表と裏の収縮率の差から、生地のだぶつきが起きることがある(極端ではない)

●クリーニング溶剤をきちんと常に品質管理して、濾過・蒸留や新しい溶剤への入れ替えなどを行いながら洗っている業者は良いのですが、溶剤管理がお粗末ないい加減な業者で着物を洗った場合、生地のベタつき感や、油性特有のすえたような嫌な臭いが残ることがある

【解き洗い張りのメリット

●全体をゴシゴシと水洗いするので、全体的にさっぱりし、経年の収縮などによる生地のヨレが消えて生地のハリが元に戻り、保管中などの嫌な臭いもかなり軽減される

●着物の寸法を現寸法から変える場合には、同じ解くのならお仕立て直しと同時に行うのがおすすめ

【解き洗い張りのデメリット

●解いて反物に戻すので、着物として再び着る場合は、着物の形に戻すお仕立て直しが必要になる

●洗剤とブラシを使って水洗いする(要は手作業の洗濯)ので、汚れや臭いの落ちはかなり良いが、落とせるのはあくまでも単に生地に付着しているだけの簡易な汚れやシミに限るので、時間が経ってもうすでに変色してしまったシミや水洗いだけでは落ちないシミには効果がないので、変色したシミは別途染み抜きが必要になる(これは着物クリーニングも同じ)

●水洗いで剥がれる金箔や刺繍の柄のあるものは基本的に水洗いが難しい(出来る場合もありますが、刺繍のよれなどが起こるリスクが高い)

 

丸洗い・クリーニング洗い張り
油性シミ  ◯  △
水性シミ  ✕  ◯
黄変シミ  ✕  △
カビシミ  ◯  ◎
風合い  ◯  ◎
仕立直し必要ない必要がある

 

着物の丸洗いと解き洗い張りのメリット・デメリットを書きましたが、基本的に仕立て直しを伴う解き洗い張りは、洗いの中でも最終手段と考えていただけばよいかと思います。

くれぐれも、着物の丸洗い・クリーニングと解き洗い張りを間違えて依頼してしまい、大事な着物が反物の状態になって戻ってきた、なんていう悲劇が起きないように、着物の丸洗いと洗い張りの違いを覚えておいていただければと思います。