このサイトやSNSなどでちょくちょくお話させていただいているのですが、シミはかなり大きく分けると、二種類に分類されます。
一つは、付いただけで変化していないシミ(例:インク・口紅・ファンデーションなど)
もう一つは、付いてから時間が経って変化したシミ(例:果実の汁・酒類・食べこぼしなど)
付いてから時間が経って変化(変色)したシミには、基本的な性質として、シミが濃ければ濃いほど、生地へのダメージが蓄積されていることが多い、ということがあります。
濃い変色シミは、染み抜きのリスクが高くなる
生地へのダメージが蓄積されていることが多い、濃い変色シミを染み抜きする場合、無理をするとどうなるか?
多くの場合に起こり得るリスク(事故)は、生地の破損です。
紙に例えて想像していただければお分かりかと思うのですが、ある程度の強度があり、折ったり切れ目を入れたりしていない紙は、引っ張っても意外と簡単には千切れたりしないのですが、強く折れ目を入れた紙は、引っ張ると折れ目の部分からいとも簡単に切れていきます。
正確には同じ状態ではありませんが、シミが濃く変色した状態の生地は、これに似たような生地の状態になっていることがあるので、染み抜き作業で強い負荷をかけると、その部分が破損するリスクが飛躍的に高まります。
また、このことが厄介なのは、生地を見ただけでは、シミが変色したことでどのくらいのダメージを受けているか?が判断しづらい部分にあります。
これは、何十年と着物のお手入れに携わっている職人であっても、正確に判断することが出来ません。
あくまで、これまでの経験値などから、「これ以上の染み抜き作業は危ない」という予感のようなものを感じるだけです。
このようなことから、変色したシミは落ちないと最初から依頼を受けない職人が多くいるのも事実です。
誰でもそのような大きなリスクを取りたくはないですからね。
なをし屋は、そのような他店様で断られてしまったお品物も受け付けておりますが、常にこのようなリスクと闘いながら染み抜き作業をしているということは理解してもらえると嬉しく思います。
小紋柄のお着物に、かなり濃い変色シミが出ております。
ここまでシミが濃いと、生地がダメージを受けているのは間違いないので、染み抜き作業だけでこのシミを見えなくするのは、非常にリスクの高い作業となります。
ご依頼者様にはその辺りのお話をさせていただいて、生地を破損させないギリギリのところまで変色シミを薄くして、その上で柄修正の方法でシミを隠すご提案をさせていただきました。
生地が破損しないギリギリのラインまで、慎重かつ繰り返して染み抜きを行い、もうこれ以上は生地の破損の可能性が高いというところで染み抜き作業を終えて、残ったシミの部分を特殊な顔料で隠蔽いたしました。
修正部分を角度を変えて見ると多少白っぽく見える状態にどうしてもなってしまいますが、正面から見た時の状態は、シミが残っている状態よりも遥かに見た目に見栄え良くなっておりますので、ご着用された際に、第三者が見てこの部分にシミがあったことを気付くことはまずないと断言出来ます。
なをし屋は染み抜きが本業ですので、染み抜きで直せるものはもちろん染み抜きで直しておりますが、このような染み抜きだけでは直せないシミの場合は、このようなご提案などで、何とか再び着られるようにすることも責務だと考えております。
他店様で染み抜き不可能と診断された場合でも、修復方法の選択肢を広げることによって再び着られる状態に出来る可能性がございますので、そのような時はお気軽にご相談ください。
【参考価格】画像部分の濃い変色シミの染み抜きと隠蔽 30,000~40,000円程度(税別)
(※注※染み抜きは生地の素材・色合い、シミの濃さなどによって金額が変わってきます。あくまで一例の参考価格としてお考えください。クリーニングその他加工は別途料金がかかります。)