紋とは何か? 紋を入れる意味

洋服になくて着物にある物の一つに、紋(家紋)があります。

この紋についてですが、詳しいことはネットで検索すればいくらでも出てきますので、その辺りは先達にお任せするとして、ここでは一般的なお話をいたします。

まず、紋(家紋)というのは、家(家系)に紐づくものです。なので、家紋と言います。

家紋の有名なところでは、江戸時代の将軍家の家紋であり、水戸光圀公の印籠に描いてある三つ葉葵(葵の御紋)や、元々は天皇家の家紋だったものを現在では日本政府の紋章として使われている、五七の桐などがあります。

そのように家柄や家系を表す家紋を着物に入れることで、着物の格を上げるという考え方があります。

例えば、色無地の着物の背中と両袖の後ろ側(外側)に紋を三つ(三つ紋)入れて、着物としての格を上げてフォーマルな席にも着ていける略式礼装の着物にしたり、訪問着に同じように一つ紋を入れて、同じく略式礼装にしたりします。

また、着物の礼装として一番格式が高いとされている黒留袖は、紋無しというのは有り得ず、背中・両袖の後ろ側・両胸の合計五つ(五つ紋)を入れます。なので、黒留袖については、染め上がった時点で紋を入れる箇所が必ず白く染め抜きされています。

ですので、着物に紋を入れるかどうか?を決めるポイントとしては、着物をフォーマルな席にも着て行きたい(格を上げたい)か?、それともお出かけ用の着物にしたいか?が、大きなポイントになるかと思います。

着物への紋の入れ方の種類 料金

着物に紋を入れる場合、入れ方(入れる方法)には大きく分けて四つの種類があります。

【抜き紋】

着物に入っている紋で一番多くポピュラーなのが、この抜き紋です。

抜き紋とは、その名が表すように、着物の生地の色を抜いて白くした上で、紋の模様(上絵)を描く方法になります。

この抜き紋ですが、着物の色を白く抜く必要があるため、紋を入れる着物の色が簡単に抜けない色の場合、特殊な色抜き方法で抜く必要があるため、その分の手間で料金が割高になります。

抜き紋については、その入れ方(抜き方)に大きく分けて2つの方法があります。

日向紋

一つは、日向紋(ひなたもん)と言われる抜き紋で、紋の形に白く抜いて、その上に紋の模様を描く紋入れになります。一般的に皆さんが目にする抜き紋のほとんどはこの日向紋となります。

陰紋

もう一つは、陰紋(かげもん)と言われる抜き紋で、日向紋が紋の形に白く抜くのに対し、陰紋は紋を縁取り(輪郭)に抜いて紋を入れる方法になります。

通常は陰紋を入れることはほとんどないので、あまり気にしなくてもよい抜き紋かと思います。

【抜き紋料金表】

【紋入れ】【反物に入れる場合】【仕立上り着物の場合】
抜き紋一つ16,500円~22,000円~
抜き紋三つ33,000円~44,000円~
抜き紋五つ49,500円~66,000円~
※仕立上り着物に入れる場合の料金には、作業時に解いた部分のほつれ直しが含まれています。
※紋を抜く際に特殊な抜き方が必要な色の着物の場合は、特殊抜染代として、紋一つにつき税込み5,500円が加算されます。

【縫い(刺繍)紋】

抜き紋が着物の地色を白く抜いて紋を入れるのに対し、縫い紋は(基本的に)地色を抜くのではなく、着物の色に合った色や注文する人が希望する色の糸で、刺繍で紋を入れる方法となります。

縫い紋は原則として背中に一つ入れる一つ紋で、この道三十年以上の店主も、女性用のお着物で袖や胸にまで縫い紋を入れた着物は今まで見たことがありません(レンタルの男性用の着物や羽織には、そのようなものもあります)

縫い紋も、縫い方によって種類が分かれています。

スガ縫い

輪郭だけでなく、紋の形のほとんどの部分を刺繍で埋める縫い方の縫い紋です。重厚な刺繍の入っている着物などに、この方法で縫い紋を入れることが多いようです。

マツイ縫い

紋の輪郭を刺繍の縫いで表現した縫い紋で、縫い紋の多くはこのマツイ縫いとなります。着物の地色よりも少し濃い目の色目の糸で縫ったり、逆に薄い色目の糸で縫ったりします。地色と同じ濃さの色目の糸で縫うということはあまりありません。フォーマルな雰囲気を出すために、金糸や銀糸で縫う場合もあります。

ケシ縫い

マツイ縫いと同じく紋の輪郭を刺繍の縫いで表現する縫い紋ですが、細い糸で縫うため、良く見ないと分からないぐらいに目立たないので、さりげなく紋を入れたいというような場合に用いる縫い紋です。

サガラ縫い

紋の輪郭を玉結びを連続させる縫い方で表現する縫い紋です。どちらかというと、フォーマルよりもお洒落感覚で入れる縫い紋となります。

【縫い紋料金表】

【縫い紋入れ(一つ)】【反物に入れる場合】【仕立上り着物の場合】
スガ縫い27,500円~33,000円~
マツイ縫い22,000円~27,500円~
ケシ縫い22,000円~27,500円~
サガラ縫い27,500円~33,000円~
※仕立上り着物に入れる場合の料金には、作業時に解いた部分のほつれ直しが含まれています。

【刷り込み紋】

男児の祝着や男性用の紋付羽織などに入れる場合が多い、紋入れの手法となります。特殊な顔料や金や銀で紋の型紙を使って、文字通り着物の生地に刷り込んで紋を入れる手法です。

生地の上に刷り込んでいるので、生地の上に乗っている状態となりますので、強く擦ると摩擦で剥がれる可能性もあります。

抜き紋を入れようとして、着物の地色の堅牢度が非常に高く白く抜けない場合や、紋の入れ替えなどの際に生地が弱っていて紋落としが出来ない場合などにも、この刷り込み紋で紋を入れる場合もあります。

【刷り込み紋料金表】

【刷り込み紋入れ】【反物に入れる場合】【仕立上り着物の場合】
刷り込み紋一つ11,000円~16,500円~
刷り込み紋三つ33,000円~44,000円~
刷り込み紋五つ44,000円~55,000円~
※仕立上り着物に入れる場合の料金には、作業時に解いた部分のほつれ直しが含まれています。
※男性・男児用の着物に刷り込み紋を入れる場合、大きさが変わりますので、料金も変わります。

【切り付け(貼り付け)紋】

切り付け紋という紋入れの方法があります。その言葉から何となく想像がつく方もおられるかと思いますが、大まかに説明しますと、白い別生地(絹)に紋を描き、それを紋の形に切り抜いて、着物の紋を入れる位置に縫い付け(貼り付け)る、という加工方法になります。

この切り付け紋を用いる場合ですが、例えば、元の紋を入れ替えたいけれども、生地が弱っていて紋落としが出来ない場合に、この切り付け紋で対応することがあります。
また、男児用の着物や羽織に紋を入れる時に、後々紋の入れ替えがスムースに出来るように、最初からこの切り付け紋で紋を入れる場合などもあります。

【切り付け紋入れ】【女性着物】【男性着物】
着物一つ紋16,500円~22,000円~
着物三つ紋33,000円~44,000円~
着物五つ紋44,000円~55,000円~
※基本的に反物に切り付け紋を入れることはありません。作業時に解いた部分のほつれ直しが含まれています。

紋の入れ替えについて 料金

ご自身で誂えたお着物では、あまりそのような必要はないかと思いますが、どなたかから譲り受けたり、あるいはリサイクル着物店で購入した着物にすでに紋が入っていて、その紋がご自身の家紋と異なる場合に、その紋を入れ替える必要が出てきます。

【紋入れ替え】

そんな場合に、紋の入れ替えという紋入れの方法があります。

抜き紋の入れ替え加工の流れとしては、今入っている紋の上絵を落とす⇨入れ替える紋の形に白く抜く⇨前の紋の形に白く残っている部分を色修正して塗りつぶす⇨新しい紋の上絵を描く という感じの流れになります。

この紋の入れ替えについては、何もない状態から紋を入れる場合と違い、既存の紋を落とすという作業が必須となりますので、上絵が落ちない材料(印刷紋など)で描かれている場合、刷り込み紋もしくは切り付け紋で対応させていただく場合がございます。

また、抜き紋から刺繍紋に入れ替えるという方法もございます。その場合は、今の紋を落としてから白く抜けている部分を全て地色で塗りつぶし、その上から刺繍紋をれる方法となります。

【紋の入れ替え料金表】

【紋入れ替え】【反物の紋の入れ替え】【仕立着物の入れ替え】
女性着物一つ紋22,000円~27,500円~
女性着物三つ紋55,000円~66,000円~
女性着物五つ紋88,000円~105,000円~
男性着物一つ紋33,000円~38,500円~
男性着物三つ紋77,000円~88,000円~
男性着物五つ紋121,000円~137,500円~
※仕立上り着物に入れる場合の料金には、作業時に解いた部分のほつれ直しが含まれています。
※元の紋が完全に落とせない場合や、生地が弱っていて紋落としが出来ない場合は、縫い紋や切り付け紋の別途お見積りでのご提案になります。

【紋消しという加工】

紋を入れ替えるのではなく、今ある紋を消す(なくす)という加工方法もあります。

正式な加工名かどうかは不明ですが、師事した父や周りの同業の先輩方もそれを紋消しと呼んでいました。

この紋消しは、紋の上絵を完全に落として、なおかつ白く抜かれている部分に色を挿して周りの地色と全く同じようにして、最初からそこに抜き紋がなかったかのように仕上げる必要がありますので、非常に難易度の高い作業となり、高度な技術力を持った職人でなければ出来ない加工となります。

また、白く抜けたところを部分的に染色して消す作業となるので、着物の地色が淡色~中間色辺りの場合は綺麗に消せる場合が多いのですが、濃色の場合、どうしても色ムラなどが出やすいので、綺麗に消せないことが多くなります。

ですので、紋消しという加工につきましては、まずは紋を消すお着物の地色を確認させていただいてからの、加工が可能かどうかも含めてのお見積りとなります。

【紋消し参考価格】

【紋消し参考価格】【反物の紋を消す場合】【仕立上り着物の場合】
紋一つ33,000円~38,500円~
紋三つ77,000円~88,000円~
紋五つ110,000円~126,500円~
※仕立上り着物に入れる場合の料金には、作業時に解いた部分のほつれ直しが含まれています。
※紋消しが出来るのは、淡色~中間色の着物のみです。濃色の着物は色ムラや違和感などが出やすくなります。

紋入れ 紋入れ替えについて Q&A

紋消しは染み抜き屋の仕事になりますが、紋入れや入れ替えについては紋屋さんの仕事となりますので、分かる範囲になりますが、紋入れや紋の入れ替えの疑問について回答いたします。

Q  紋入れした着物の格式は何で決まるんですか?

A これには、ハッキリとした決まりがありまして、基本的に紋が入った着物の格式を決めるのは、入れた紋の数です。例えば、紋が三つ入った色無地と、紋が一つ入った訪問着、どちらが着物の格が上になるかというと、三つ紋が入った色無地ということになります。ただ、この辺りのことは、着物の元々の格によって変わってきますので、例えば同じように三つ紋が入った色留袖と三つ紋が入った訪問着であれば、色留袖の方が格式が高いという位置づけになります。黒留袖に関しては、着物の格も紋の数も一番格上となりますので、一般市民の礼装としての格式は、黒留袖が最上級という位置づけになります。

Q 抜き紋と刺繍紋はどちらが格上になりますか?

A これについては、抜き紋の方が格式が高いとされています。ですので、礼装として着たいお着物には、基本的に抜き紋で紋を入れます。

Q 華紋(花紋)ってなんですか?

A 華紋(はなもん)は、主に刺繍で家紋とは異なる紋を背中の一つ紋に入れる加工となります。花や鳥などの柄を華やかな色合いの刺繍糸で表現した物が多く、格式ではなくファッションや洒落としての意味合いで入れる縫い紋ですので、フォーマルに使いたいお着物にはオススメいたしません。オリジナルの華紋をデザインして入れることも可能ですが、その場合はデザイン起こしから始めますので、その分の料金がかかります。基本的には、カタログのような物からお選びいただいております。

Q 洗える着物に紋を入れることは出来ますか?

A 結論から申しますとあまりオススメいたしません。理由として、洗える着物の生地はポリエステルになるのですが、ポリエステル生地は抜染が出来ないので、抜き紋を入れることが出来ません(東レのシルックは抜き紋が出来るそうです) そうなると、可能な紋入れは縫い紋か刷り込み紋になるのですが、縫い紋の糸は絹なので、着物を水洗いした際に縮み・捩れ・色落ちなどが起こる可能性が高くなります(洗いで縮みなどが出ないポリエステルの糸で縫い紋を入れてくれるお店もあるようですが、残念ながら当店では現在受け付けておりません) 刷り込み紋は、水にはある程度耐えてくれるかと思いますが、それでも水洗いをする際の摩擦で剥離する可能性があるので、洗える着物に紋を入れるのはオススメ出来ません。 近年よくある洗える絹の着物の場合ですが、抜き紋を入れることは可能ですが、洗った際に紋が滲む恐れがあります。

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