【着物初心者にも分かる】紀子さまのお着物について

先日、英国チャールズ国王の戴冠式に列席されました、秋篠宮皇嗣妃殿下 紀子様がお召しになられたお着物について、ネットを中心に大きな話題となっておりますが、京都で着物業界の末席に名を連ねている私、なをし屋代表・栗田裕史が、着物にあまり馴染みのない方にも分かりやすく解説いたします

秋篠宮皇嗣妃殿下 紀子さまのお着物について

紀子様が英国国王の戴冠式にご列席された際にお召しになられたお着物について、着物の種類、文様(柄)や色合い、礼装としての格などについて、分かりやすく解説したいと思います。

戴冠式 紀子様 お着物

引用元:NHKサイトより

 

着物の種類・名称

まず、紀子様がお召しになられているお着物の種類についてですが、名称としては、「訪問着(ほうもんぎ)」と呼ばれる種類のお着物になります。

訪問着とは、洋装で言うところのフォーマルな衣装の位置付けとなる着物ですが、礼装としては、正礼装ではなく略礼装の位置付けとなります(紀子様のお召になられた訪問着の位置付けについては、後ほど詳しく説明いたします)

着物の柄(文様)や色合い

紀子様がお召しになられた訪問着の柄についてですが、「山取り 吉祥文様(やまどり きっしょうもんよう)」という柄になります。

吉祥文様とは、良い兆しやめでたいということを意味する文様で、祝意を表す柄でもあります。

柄は、袖・左胸辺りと、裾周り全体に上前(左)身頃から後身頃を通って下前(右)身頃まで、流れるように連続した文様が描かれています。

柄の内容としては、縁起が良いとされている柄を組み合わせているのですが、画像で分かる範囲ですと、松や瑞雲(ずいうん)などが描かれているようです。

文様の技法としては、糊糸目(防染のための加工)の京友禅と手仕事による金彩加工で描かれており、京友禅の最高峰の技術を駆使した物と言って差し支えないかと思います。

お着物の色目についてですが、ネットなどでは灰桃色や灰桜色、もしくは薄ピンク色などと諸説あるようですが、実際には地色は「薄茶色」で、「薄茶地共濃暈し(うすちゃじともこいぼかし)」という色合いと染め方になっております。

共濃暈し(ともこいぼかし)とは、薄い地色と同じ色目を濃くした染料で濃い部分を染めているのですが、暈しとは、薄い地色と濃い地色の境目をぼかしてグラデーションのようにして染める技法になります。

帯の文様

帯の文様は、一般的には「唐花七宝文様(からはなしっぽうもんよう)」と呼ばれる文様で、この文様も、祝意を表す文様となっています。

紀子様のお着物の紋について

画像で見る限りでははっきりとは判別が出来ないのですが、おそらく、訪問着に三つ紋が入っているのだと思われます。

紋の位置は、背中の首の後ろあたりに一つ、左右両袖の後(外)側に一つずつ入っているものと思われます。

着物の格の話をさせていただくと、両胸も含めた五つ紋を入れた着物が格としては一番上とされており、三つ紋の場合は、それに準ずる位置付けと考えて良いかと思います。

紋については、これもおそらくという話になりますが、秋篠宮家の家紋である「菊栂(きくつが)」という紋が入っていると思われます。

紋が入ることによる格の話

訪問着は、格の話になると、着物の第一礼装(正礼装)である留袖に比べて、略礼装(りゃくれいそう)という位置付けとなるのですが、紋を入れると、準礼装(じゅんれいそう)という位置付けと考えられており、第一礼装である留袖に準ずる格と考えられています。

紀子様が、英国チャールズ国王の戴冠式で準礼装である訪問着をお召しになられたことについてですが、参列されたのが天皇陛下ご夫妻ではなく皇嗣ご夫妻であることなどもあり、宮内庁としても色々な話し合いなどの結果、正礼装の留袖ではなく訪問着に三つ紋を入れた準礼装での参列、というところに落ち着いたのではないかと考えております。

余談ですが、上皇后美智子様も訪問着を好んでお召しになられていたとのことで、その点を踏まえても、今回紀子様が訪問着で戴冠式にご列席なされたことは、個人的には問題はないと考えております。

そもそも、皇室の方のお着物を批判的に論ずることが不毛

これを言ってしまうと身も蓋もないのですが、皇室の方が私用ではなく国の代表として参列される場合のお召し物ですから、皇室のお付きの方や宮内庁の方々のチェックが入っていないわけがないんですよね。

つまり、今回の戴冠式で紀子様が訪問着をお召しになられたのも、皇室や宮内庁としてはそれでOKということですから、着物の格がどうのこうのと言うのは不毛な議論だと個人的には思います。

今回の騒動でも分かるように、着物にはあれこれと面倒くさい部分があるのですが、やはり着物には着物にしかない魅力が溢れるぐらいにありますので、この記事などで着物への興味や関心を持ってくださる方が一人でもいらっしゃったら、着物業界の末席に名を連ねている者としては、非常に嬉しく思います。

紀子さまのお着物や着姿への批判について

紀子さまのお着物や着姿について、ネットで批判があるようですが、分かる範囲で解説したいと思います。

着姿がシワシワ

これについては、配信された画像も良くないなぁ、と思います。

歩かれている時にちょうどシワが入った状態の着姿の写真が出回っているように思います。

着物の裾に「しつけ糸」が付いたまま

これについてはおそらく誤認だと思います。

しつけ糸というのは、着物が仕立て上がった際などに型崩れの防止などを目的として裾や袖などに縫い付ける仮縫いの糸で、着る際には外すのがルールとなっておりますが、実際に見たことがある方は分かると思うのですが、非常に細い糸です。

配信されている引きの画像で見えるようなしつけ糸はまずあり得ないと思われますし、もし見えるような糸なら、タコ糸ぐらい太い糸であるということになりますが、それはどう考えてもあり得ないですね。

同じような内容になりますが、先日のライブ配信でも紀子様のお着物についてお話させていただいております。

こちらももしよろしければご覧くださいませ。